公開日:2026年5月22日

現代アートが熱い! 韓国・ソウル最新アートガイド(2)

第1回のイテウォン〜アックジョン~ヨンサンでは、著名な美術館とギャラリーをメインに紹介した。今回は観光地としても知られている東大門(トンデムン、동대문)や鍾路(チョンノ、종로)近辺のアートスペースを取り上げる。建築家ザハ・ハディドが設計したDDPや、世界遺産にも登録された宗廟(チョンミョ、종묘)、連日大勢の人が訪れる広蔵(クァンジャン)市場をはじめ、新旧の文化が目を引く地域だ。加えて、近年アート関係者の間でも注目度の高い城北(ソンブッ、성북)区のオルタナティブスペースやギャラリーを紹介したい。

各スペースには公式サイトのリンクや、筆者が運営する日本と韓国の展覧会・イベント情報を紹介するポータルサイト「Padograph」のリンクを付けているので、訪問前に詳細を確認してほしい。


Doosan Gallery(ドゥサン・ギャラリー)

The 13th DOOSAN Yonkang Arts Awards Recipient Heemin Chung’s Solo Exhibition Receivers, Installation view, DOOSAN Art Center DOOSAN Gallery, 2023, Photo by studio GRAFFITO, © DOOSAN Art Center
Maniera, Installation view, DOOSAN Art Center DOOSAN Gallery, 2023, Photo by lan Yang, © DOOSAN Art Center

前回とりあげたイテウォン・アックジョン・ヨンサンよりも、今度は少し北に行って見よう。ドゥサン・ギャラリー(Padograph)は非営利のアートスペースで、主に韓国の作家の個展や企画展を中心に紹介している。2007年にオープンしたこのスペースの特徴として、キュレーター・ワークショップがあげられる。応募者の中から選ばれた3名が、セミナーやフィールド・リサーチなどの教育を受け、自分たちで展示を企画するまでが一連の流れとなっている。現在国公立の美術館でキュレーションに携わっている人にも、このワークショップの経験者がいる。まさに美術の現場と志を結ぶ、橋渡し役と言えるだろう。また、公演芸術と美術部門で2010年からアーティストを選出し、「ドゥサン・ヨンガン芸術賞」を授与している。2024年の受賞者であるチョン・ヨルムが移民や難民をテーマにした映像作品を、個展形式で今年の8月に公開予定とのことだ。

歩いて行ける距離には、flow.n.beat(インスタグラム)やThe SoSo(Padograph)、Alternative Space Loop(インスタグラム)、A-O-Y(インスタグラム)などのギャラリーやアートスペースがある。近くには屋台で有名な広蔵市場と清渓川があり、韓国ならではの雰囲気を満喫することもできる。時間に余裕があれば、旅のスケジュールに組み込んでもよさそうだ。

ARKO Art Center(アルコ美術館)

ARKO Art Center外観/ARKO Art Center提供
ヴェネチア・ビエンナーレ第19回国際建築展 「Little Toad, Little Toad: House of Time」(2026)会場記録 ⓒチェ・ヨンジュン撮影/ARKO Art Center提供

明洞や東大門といった観光名所から少し北上すると、ヘファ駅がある。この一帯は「大学路」と呼ばれ、演劇やミュージカルの公演会場があることでも知られている。市民の憩いの場として親しまれているマロニエ公園の敷地内、赤レンガの佇まいがひと際目を引くのが、アルコ美術館(Padograph)だ。韓国を代表する建築家キム・スグンの設計によって、1974年に建てられた。当初は「美術会館」と呼ばれていたが、2005年に創設された韓国文化芸術委員会(Arts Council Korea)の略称をとって、今の名前となった。所蔵品の研究や展示企画のほかにも、様々な年齢層に開かれたイベントなどを行っている。ヴェネチア・ビエンナーレやヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展の帰国報告展もたびたび行われており、広い展示会場を出れば「アルコ・アーカイブ」と呼ばれる図書館も利用できるようになっている。今年は、音楽的要素を作品に取り入れた作品で知られているオ・ミンとカミーユ・ノーメント(Camille Norment)による二人展や、コレクション展などが予定されている。大御所ともいえる美術館の今後の展開にも注目してみよう。

CHMBR(チャンバー)

チャンバーの中庭/CHMBR提供
ナナ&フェリックス個展「LANDSCAPING」(2022)/提供:CHMBR

ヘファからもそれほど遠くない場所に、ソンブッ区という地域がある。近年新しいスペースや話題性のあるスペースが密集している一帯である。屋上の一室で展示を行う「Boofy」(インスタグラム)、上映会や展示を行っている「Art these days」(Padograph)、韓国家屋の名残が会場とマッチする「Spaceuooyoung」(Padograph)、教会の礼拝堂を展示会場にした「TINC」(インスタグラム)、そしてこれから紹介する三か所は歩いても行ける距離なので、展示ツアーを敢行するにはおススメだ。のどかな「城北川」のほとりを歩きながら展示を観に行って見よう。

大通りの傍、細い横道に入ると洋服お直しの看板が見える。数歩先に進んだ向かい側にあるのがチャンバー(Padograph)だ。チャンバーは若手作家による個展だけでなく、若手キュレーターの実践の場にもなっている。韓国の伝統家屋の趣が感じられるこの会場では、独特な構造をいかした展示などが見られる。会場内は白塗りの壁もあれば、コンクリートの壁もあり、会場の活かし方がキュレーター側にも問われるといえるだろう。最近では、インディペンデント・キュレーターによる企画展が頻繁に開催されている。美術館とはまた異なる趣で、若手キュレーターとアーティストが語る内容に耳を傾けてみよう。


KICHE(キチェ)

キチェ外観 ⓒチェ・チョルリム/提供:KICHE
キチェ内観 ⓒチェ・チョルリム/提供:KICHE

ソンブッ区には前のページで触れたアートスペースだけでなく、コマーシャルギャラリーも点在している。Leeumで回顧展が開かれたことが記憶に新しいイ・ブルの専属ギャラリーBB&M(公式サイト)やJason Haam(インスタグラム)も近年注目されている。韓国ではすっかり中堅のギャラリーとして認知されているキチェも、昨年ソンブッ区に移転した。長年国内外のアーティストを紹介しているこのギャラリーでは、移転後も旺盛な活動を見せている。現在は、韓国の中堅作家であるユン・ミソンの個展「Ball and Water Mold」が6月20日まで開催中である。また近年は、南アフリカで活動するアーティストを頻繁に紹介しており、モンゲジ・ンカパイ(Mongezi NCAPHAYI)カラン・グレイシア(Callan Grecia)、そして今年はガブリエル・クルーガー(Gabrielle Kruger)の個展が予定されている。グローバル化が進んだとはいえ、他国のアーティストの作品を拝見する機会は限られている。キチェ(Padograph)で新たな世界に触れてみるのもよいだろう。

Heresi(ヘリシ)

ヘリシ外観/撮影:コ・ジョンギュン
「航海日誌:Wave to the Starry」会場記録/撮影:コ・ジョンギュン

2026年にも新しいスペースがソウルの様々な場所で誕生した。KEYSHAPE(Padograph)、「Crisp Wedge」(Padograph)、Sweep Seoul(インスタグラム)、Ultra(インスタグラム)、Eckeida(インスタグラム)、YANGJA(Padograph)など、これからの動向がとても楽しみだ。その中でも、ヘリシ(Padograph)の存在は際立っている。女性アーティストや美術関係者の集まる「Louise the Woman」の活動の一環として、ついにアートスペースができたのだ。

2020年からオンライン/オフラインで女性アーティストや美術関係者のネットワークを拡張しているこのコミュニティは、自身もアーティストとして活動する有志によって立ち上げられた。作品の講評会やポートフォリオ・レビューといったコミュニティ内部の活動にとどまるかと思いきや、この度スペースをオープンし、作品や企画がより多くの人の目に触れるきっかけを生み出した。1976年にニューヨークでフェミニストのアーティストたちによって立ち上げられた「Heresies Collective」から名前をとったヘリシで、記念すべき初展示が先日開幕した。Louise the Womanでの出会いをきっかけに、勉強会を続けてきたメンバーたちによる展示「航海日誌:Wave to the Starry」は、今後のヘリシの突き進んでゆく方向性を象徴的に表しているだろう。


紺野優希

紺野優希

こんの・ゆうき 콘노 유키 主に韓国で活動している美術批評家。「アフター・10.12」(Audio Visual Pavilion・2018)、「韓国画と東洋画と」(gallery TOWED, FINCH ARTS, Jungganjijeom II・2022)などを企画。日本と韓国の展覧会・イベント情報を紹介するポータルサイト「Padograph」(https://padograph.com/ja)の韓国担当。GRAVITY EFFECT 2019 美術批評コンクール次席。レビュー・プロジェクト記録集「朝鮮通信使月報」刊行予定(2024)。

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